がんと栄養

がんと栄養
がん治療において、多くの患者さんが直面するのが「体重減少」と「食欲不振」です。
がん患者さんの体重減少の原因には、大きく分けて2つの理由があります。
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- 食事量の減少:
- 治療の副作用やがんによる通過障害などで、食べる量が減ったために痩せてしまう。
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- 代謝の変化(がん悪液質):
- がん自体が出す物質により代謝異常が生じ、骨格筋や脂肪が分解されてしまう。特に筋肉の減少が問題となります。
1つ目の「食事量の減少」の場合、様々な工夫で食事量が増えれば、体重が増える可能性がありますが、2つ目の「がん悪液質」の場合は、食事を食べていても痩せてしまうことがあります。また、多くのがん患者さんではこの2つの原因が組み合わさっています。
このような状態が続くと、栄養状態の悪化により、生活の質(QOL)の低下や、免疫力が下がって感染症にかかりやすくなったり、治療の継続が困難になったりする場合があります。
3つのステージ
がん悪液質は3つのステージに分類される
がん悪液質は、EPCRCの提唱では3つのステージに分類されます。
「前悪液質」は「悪液質」の初期の段階を示しており、軽度の体重減少や食欲不振・代謝異常が見られ始めます。「悪液質」に進行する前のこの段階で栄養状態の悪化を防ぐことが大切です。普段から体重計に乗る習慣を身に付け、自分の体の状態を把握しておきましょう。
「不応性悪液質」の段階では抗がん剤治療が難しくなり、緩和治療が中心となります。
生活の質(QOL)を維持しながら、がん治療を継続していくためには、「前悪液質」の段階で、栄養療法・運動療法・心理療法などを組み合わせた介入を早期に行う事が大切です。
今では、「栄養管理はがん治療における重要な治療戦略のひとつ」とも言われており、「治療を続けるための体づくり」として、食事の工夫や栄養補助食品などを上手に活用し、体重と筋肉を維持していくことが非常に重要です。
※EPCRC:European Palliative Care Research Collaborativeの略
※サルコペニア:高齢になるに伴い、筋肉量が減少したり筋力が低下したりする現象。
※PS:全身状態の指標のひとつで、患者さんの日常生活の制限の程度を示す。
基本の食事の組み合わせ
主食・主菜・副菜を組み合わせる事で、栄養素のバランスが整いやすくなります。
「主食」はご飯・パン・麺類などの炭水化物を多く含む食品です。エネルギー源として体に蓄えられます。車に例えるとガソリンの働きをしてくれます。 「主菜」はお肉・お魚・乳製品・大豆製品などのたんぱく質を多く含む食品です。筋肉・内臓・皮膚・血液などの体の組織を作ります。 「副菜」は野菜・こんにゃく・きのこ類などのビタミン・ミネラルを多く含む食品です。糖質・たんぱく質・脂質の分解や合成を助けてくれます。
下のイラストを参考に、食事の組み合わせを意識してみましょう。乳製品・果物は1日1回程度を目安に摂取できると良いでしょう。
栄養サポート
食事が進まない時も焦らずに「無理のない栄養サポート」を
できるだけ栄養素のバランスを意識して食べる事が大切ですが、治療の関係で味覚の変化が出たり、1回量が十分に食べられなくなる場合があります。
食事が進まない状況が続くと「食べないと痩せてしまう」「分かっていても食べられない」という不安や焦りを感じてしまう事があると思います。 一緒にサポートしている家族も、「何とかして食べさせなきゃ」「食べて欲しいけど食べてもらえない」という気持ちを抱えてしまう事もあるのではないでしょうか。

ここで大切なのは、食事が苦痛になってしまわないように体調に合わせた栄養補給を行う事です。 体調が悪く食欲が出ない場合は、無理に1日3食を守る必要はありません。食事の回数を増やして少量ずつ食べたり、食べる物の優先度を意識したりしてみましょう。
まずは食べたい物・食べられそうな物を優先的に口にし、その次は、身体を維持するためのエネルギー・たんぱく質源を確保するために主食・主菜を優先的に摂取してみましょう。 理想の食事にとらわれず、「〇〇なら食べられるかも!」と思うものがあれば、その食品を軸に栄養補給に繋げましょう。
また、少量でも栄養を確保できるような食事の工夫も大切です。キーワードは「カロリーとたんぱく質」です。ここで、カロリーUPのための3つのポイントをお伝えします。
①調理法の工夫でカロリーUP
茹でる・蒸す・煮るという調理法よりも、揚げる・炒める・焼く方がカロリーがUPします。白ご飯よりはチャーハン、お豆腐より厚揚げ、野菜のお浸しよりは野菜炒めにするなど、食べられる物の調理法を工夫してみましょう。


②ちょい足しでカロリーUP
普段の食事にカロリーUPできる食品を「ちょい足し」して効率的な栄養補給を目指しましょう。 例えば、野菜スープのようなあっさりしたスープ類に牛乳や豆乳をプラスしてポタージュのように味わいを変化させる事でカロリー・たんぱく質を補う事ができます。 意外とお味噌汁に入れても美味しく食べられますので、ぜひ試してみてください。
また、マヨネーズで野菜を和えるなど、脂質を利用してカロリーUPをする事も可能です。 お刺身を食べる時もオリーブオイル・ごま油などでカルパッチョ風にしたり、福井名物「おろしそば」には天ぷらや天かすをトッピングするなど、お馴染みの食事にもカロリーUPの工夫を取り入れてみてください。


③少量で高栄養の食品を常備してカロリーUP
カステラ・お饅頭などの和菓子や、缶詰フルーツ・プリン・アイスクリームは少量でもカロリーの確保に役立つ食品です。間食として、食べたい時に食べられるように常備しておくと便利です。
食欲不振の他に、嘔気・嘔吐が続く場合は、消化に良い食品/調理方法の選択や、冷たくさっぱりと口当たりの良い食品を選びましょう。匂いに敏感になり嘔気・嘔吐に繋がる場合もあります。匂いの強い食品を避けたり、温かい食事は冷ましてから食べたりするなど、匂いを抑える工夫をしてみましょう。
味覚の変化が表れる事もあり、甘みを強く感じたり、苦み・金属のような味を感じる場合もあります。味の感じ方に合わせて使う調味料を変えたり、レモンの酸味やスパイスなどを活かして味に変化を付けたりしてみましょう。

患者さんごとに症状はそれぞれであり、必要なサポートが異なります。栄養指導では、患者さんのライフスタイルや思いを確認し、食事を楽しんでいただけるような工夫をお伝えしています。「食事が苦痛・・・」と感じ始める前に、ぜひ管理栄養士へご相談ください。
栄養補助食品について
栄養補助食品は、「少しの量しか食べられない」「副作用で食べるのがつらい」等の場合に、手軽に栄養摂取ができる便利な食品です。食事の代わりに摂取したり、食事と食事の間に摂取する事(少量頻回食)で、1日の摂取エネルギーUPに繋げられます。
自分に合った栄養補助食品を選択し、上手に取り入れていきましょう。
栄養補助食品の選び方のポイント
- エネルギー、たんぱく質、ビタミン・ミネラルなどの栄養素をバランスよく含んだ食品を選ぶ
- 自分の飲み込みの力(嚥下機能)に合わせて、飲料タイプ/ゼリータイプを選ぶ
- こってりした味・独特のもったりした感じが苦手な場合は、脂質ゼロのさっぱりタイプの食品や、スポーツドリンク味のようなあっさりした味の食品を選ぶ
どんな物を選んだら良いか分からない時は、ぜひ管理栄養士までご相談ください。
当院では・・・
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食事が進まない入院患者さんに対して、管理栄養士が個別に訪問を行います。がんの種類・治療状況によって食事に関する問題はさまざまです。丁寧な聞き取りを行い、できる限り要望に合わせた食事内容の調整を行っています。
- 外来患者さんには外来栄養指導にて、食事の不安な事や気になっている事を伺い、その方の症状・生活状況に合わせたお食事のアドバイスを行っています。
通院治療センターでの外来化学療法の合間に栄養指導を受けることも可能です。ご希望の方は、主治医または看護師へご相談ください。

